私にとって「風」は音楽です。
そして、「音楽」もまた風なのです。
〜 風がやってきた 〜
五月の神戸明るい日差しの中、
小高い丘をとぼとぼと歩いているひとりの男性。
腕には赤ちゃんが抱かれています。
何を見せても反応を示さない赤ちゃん。
未熟児網膜症で生まれつき目が見えない幼子でした。
「これからこの子をどうやって育てよう・・・」
重い心を引きずったまま、
少し休もうと彼は立ち止まりました。
そんな彼と赤ちゃんの間を
さーっと爽やかな風が吹き抜けていきました。
その時です。
手足をばたばたさせて、
その赤ちゃんが体いっぱいに喜びを表しました。
今まで何を見せても何の反応も示さなかった
自分の息子が喜びを全身で表したのです。
「この子が喜んでいる・・・」
「この子を育てていける」
「この子を育てて行こう」
爽やかな風はその父親に勇気と希望を与えたのです。
私、時田直也が生後六ヶ月のことでした。
エッセイ集「風ふく道で〜光の声をききながら」より
これが私の原点・・・
風を喜ぶ子を抱き、五月の風を抱く
亡き父の俳句